2026年7月15日、肺線維症の新しい治療薬「ジャスケイド錠」が発売されました。
ジャスケイド錠は、これまで使用されてきた肺線維症治療薬とは異なる仕組みで作用するお薬です。
肺線維症は、肺が徐々に硬くなり、呼吸機能が低下していく病気です。
これまでにも肺の線維化の進行を抑えるお薬はありましたが、治療には依然として課題が残されています。
今回は、従来の肺線維症治療薬との違いを含め、ジャスケイド錠の作用機序、効果、飲み方、副作用について、現在わかっていることを解説します。
肺線維症とは?
肺は、呼吸によって酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を体外に排出する働きをしています。
肺線維症は、肺の組織に線維化が起こり、肺が硬くなってしまう病気です。
肺が硬くなると、十分に膨らみにくくなり、呼吸機能が低下していきます。
主な症状には、次のようなものがあります。
- 息切れ
- 乾いた咳
- 呼吸困難
肺線維症にはさまざまな原因がありますが、ジャスケイド錠が使用されるのは、主に次の2つの病態です。
① 特発性肺線維症(IPF)
原因が特定できない肺線維症です。
時間の経過とともに肺の線維化が進行し、呼吸機能が低下していきます。
② 進行性肺線維症(PPF)
特発性肺線維症以外の線維性間質性肺疾患のうち、肺の線維化が進行する特徴を示す病態です。
肺機能の低下や呼吸器症状の悪化、胸部画像での線維化の進行などから判断されます。
いずれも、肺機能の低下をできるだけ抑えることが治療上の重要な目標となります。
従来の肺線維症の治療薬
これまで、特発性肺線維症の治療では、主に2種類の抗線維化薬が使用されてきました。
| 商品名 | 一般名 | 主な作用 |
|---|---|---|
| ピレスパ | ピルフェニドン | 線維化に関わる過程を抑制する |
| オフェブ | ニンテダニブ | 線維化に関わる複数のチロシンキナーゼを阻害する |
これらのお薬は、肺の線維化に関わる働きを抑え、肺機能の低下を遅らせる目的で使用されます。
ただし、すでに線維化した肺を正常な状態に戻すお薬ではありません。
また、肺線維症の原因によっては、原因疾患に対する治療や免疫抑制薬などが使用される場合もあります。
肺線維症といっても、すべての患者さんに同じ治療が行われるわけではありません。
新薬「ジャスケイド錠」とは?
ジャスケイド錠は、2026年5月18日に製造販売承認され、同年7月15日に発売された新しい肺線維症治療薬です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名 | ジャスケイド錠9mg・18mg |
| 一般名 | ネランドミラスト |
| 製造販売元 | 日本ベーリンガーインゲルハイム |
| 薬効分類 | PDE4B阻害剤(抗線維化・免疫調整剤) |
| 効能・効果 | 特発性肺線維症、進行性肺線維症 |
ジャスケイド錠の最大の特徴は、PDE4Bという酵素を阻害することです。
従来のピレスパやオフェブとは異なる作用機序を持っています。
ジャスケイド錠の作用機序
ジャスケイド錠は、PDE4B(ホスホジエステラーゼ4B)という酵素を阻害するお薬です。
少し難しい仕組みなので、順番に説明します。
cAMPとは?
私たちの細胞の中には、cAMP(環状アデノシン一リン酸)という物質があります。
cAMPは、細胞内で情報を伝達する役割を持ち、炎症や線維化に関わる細胞の働きを調節しています。
一方、PDE4という酵素には、cAMPを分解する働きがあります。
ジャスケイド錠は、このPDE4の中でもPDE4Bを選択的に阻害します。
その結果、cAMPの分解が抑えられ、細胞内のcAMP濃度が上昇します。
これによって、肺の線維化を促進する増殖因子や炎症性サイトカインの発現が減少し、抗線維化作用と免疫調整作用を示します。
作用機序をまとめると、次のようになります。
- ジャスケイド錠がPDE4Bを阻害する
- cAMPの分解が抑制される
- 細胞内のcAMP濃度が上昇する
- 線維化促進因子や炎症性サイトカインの発現が減少する
- 抗線維化作用・免疫調整作用を示す
実際に、特発性肺線維症患者さん由来の肺線維芽細胞を用いた実験では、細胞外マトリックスの発現や、線維芽細胞から筋線維芽細胞への変化を抑制することが確認されています。
ただし、これらは主に細胞実験や動物実験で確認された作用です。
実際の患者さんでどの程度の効果があるのかについては、臨床試験の結果を確認する必要があります。
ジャスケイド錠の効果は?

ジャスケイド錠の有効性は、国際共同第Ⅲ相試験で検証されました。
ここで重要なのが、「FVC(努力性肺活量)」という指標です。
FVCとは、息を最大限吸い込んだ後、できるだけ強く吐き出したときの空気の量です。
肺線維症では肺が硬くなり、FVCが低下していきます。
臨床試験では、ジャスケイド錠を服用した患者さんと、プラセボ(有効成分を含まない薬)を服用した患者さんを比較し、52週間後のFVCの変化を調べました。
① 特発性肺線維症(IPF)での効果
FIBRONEER-IPF試験では、特発性肺線維症の患者さん1,177人を対象に、有効性と安全性が検証されました。
52週間後のFVC変化量
| 投与群 | FVC変化量 |
|---|---|
| ジャスケイド18mg・1日2回 | −114.7mL |
| ジャスケイド9mg・1日2回 | −138.6mL |
| プラセボ | −183.5mL |
※数値はベースラインからの変化量の調整平均値です。
プラセボ群では、52週間でFVCが平均183.5mL減少しました。
一方、ジャスケイド18mg群では114.7mLの減少にとどまりました。
つまり、18mg群ではプラセボ群と比較して、FVCの低下が平均68.8mL少ない結果となりました。
9mg群でも、プラセボ群と比較して平均44.9mLの差が認められました。
いずれの用量でも、プラセボ群との比較で統計学的に有意な差が認められています。
② 進行性肺線維症(PPF)での効果
FIBRONEER-ILD試験では、進行性肺線維症の患者さん1,176人を対象に検証されました。
52週間後のFVC変化量
| 投与群 | FVC変化量 |
|---|---|
| ジャスケイド18mg・1日2回 | −98.6mL |
| ジャスケイド9mg・1日2回 | −84.6mL |
| プラセボ | −165.8mL |
※数値はベースラインからの変化量の調整平均値です。
プラセボ群では、52週間でFVCが平均165.8mL減少しました。
一方、ジャスケイド18mg群では98.6mL、9mg群では84.6mLの減少でした。
プラセボ群と比較すると、
- 18mg群:平均67.2mLの差
- 9mg群:平均81.1mLの差
が認められました。
どちらの用量でも、プラセボ群との比較で統計学的に有意な差が認められています。
なお、この試験では9mg群の数値が18mg群を上回っていますが、この結果だけで9mgの方が18mgより効果が高いとは判断できません。
今回の試験で確認されたのは、それぞれの用量がプラセボ群と比較してFVCの低下を抑えたということです。
肺機能の低下を抑えることが確認された
2つの臨床試験から、ジャスケイド錠には特発性肺線維症と進行性肺線維症の両方で、肺機能の低下を抑える効果があることが示されました。
ただし、ここで注意したいことがあります。
ジャスケイド錠は、すでに線維化した肺を正常な状態に戻すことが確認された薬ではありません。
また、臨床試験の数値は患者さん全体の平均的な結果です。
すべての患者さんに同じ効果が現れるわけではありません。
死亡や急性増悪を防ぐ効果はある?
肺線維症の治療では、肺機能の低下だけでなく、急性増悪や入院、死亡を防ぐことも重要です。
急性増悪とは、呼吸状態が短期間で急激に悪化することです。
ジャスケイド錠の臨床試験では、肺機能の変化に加えて、急性増悪・呼吸器疾患による入院・死亡についても評価されました。
特発性肺線維症(IPF)
ジャスケイド18mg群とプラセボ群を比較した結果、急性増悪・呼吸器疾患による入院・死亡を組み合わせた評価項目のハザード比は、1.17でした。
95%信頼区間は0.86~1.59でした。
進行性肺線維症(PPF)
同じく18mg群とプラセボ群を比較した結果、ハザード比は0.77でした。
95%信頼区間は0.59~1.01でした。
ハザード比は、イベントが発生するリスクを比較するための指標です。
1より小さい場合はイベント発生リスクが低い方向の結果を示しますが、統計学的な不確実性も考慮する必要があります。
今回の結果では、いずれも95%信頼区間に1が含まれています。
そのため、現時点では、ジャスケイド錠によって急性増悪・入院・死亡のリスクが低下すると結論づけることはできません。
また、死亡率の改善についても、確立した効果として説明することはできません。
今回の臨床試験で明確に確認されたのは、52週間におけるFVC低下の抑制です。
長期間服用した場合の効果は?
ジャスケイド錠は新しい治療薬であり、長期的な有効性や安全性については、今後も情報の蓄積が必要です。
第Ⅲ相試験では、52週間後のFVC変化量を主要評価項目として有効性が検証されました。
しかし、長期間服用することで寿命が延びるのか、肺の線維化そのものが回復するのかといった点については、現時点で十分に証明されていません。
したがって、肺機能の低下を遅らせる効果と、病気そのものを治す効果は区別して考える必要があります。
ジャスケイド錠の飲み方
ジャスケイド錠は、通常、成人に18mgを1回1錠、1日2回服用します。
副作用などによって服用を継続することが難しい場合には、医師の判断で9mgを1日2回に減量することができます。
また、ジャスケイド錠は食事の有無にかかわらず服用できます。
服用する際は、錠剤を噛まずにコップ1杯の水とともに飲みます。
服用時に注意したいのが、光に対して不安定であることです。
そのため、服用直前にPTPシートから取り出す必要があります。
また、併用薬によって用量調整が必要となる場合があるため、自己判断で減量・中止しないようにしましょう。
従来の肺線維症治療薬と併用できる?
ジャスケイド錠は、従来の抗線維化薬であるピルフェニドンやニンテダニブを使用している患者さんを含む臨床試験で、有効性と安全性が検証されています。
ただし、併用する薬によって注意点が異なります。
ピルフェニドンとの併用
ピルフェニドンを併用すると、ジャスケイド錠の血中濃度が低下することが確認されています。
臨床試験では、ピルフェニドンを使用していた患者さんで、ジャスケイド錠の定常状態におけるトラフ血漿中濃度が約50%低下しました。
そのため、添付文書では、ピルフェニドンを併用する場合、ジャスケイド錠を9mg・1日2回に減量しないよう定められています。
ニンテダニブとの併用
ニンテダニブを使用している患者さんも臨床試験に含まれていました。
ジャスケイド錠とニンテダニブの併用についても検討されていますが、患者さんの状態や副作用などを考慮する必要があります。
また、ジャスケイド錠は主にCYP3Aなどによって代謝されるため、特定の抗菌薬や抗真菌薬などとの併用で血中濃度が変化することがあります。
例えば、クラリスロマイシンやイトラコナゾールなどの強いCYP3A阻害薬を併用する場合には、ジャスケイド錠を9mg・1日2回に減量することとされています。
服用中の薬がある場合には、医師や薬剤師による確認が必要です。
ジャスケイド錠の副作用
ジャスケイド錠で特に注意したい副作用は、下痢です。
添付文書には、次のような副作用が記載されています。
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| 下痢 | 30.8% |
| 悪心(吐き気) | 1%以上10%未満 |
| 食欲減退 | 1%以上10%未満 |
| 体重減少 | 1%以上10%未満 |
| 心房細動 | 1%未満 |
| 背部痛 | 1%未満 |
また、重大な副作用として、重度の下痢(1.3%)が報告されています。
下痢はいつ起こりやすい?
特発性肺線維症の患者さんを対象とした臨床試験では、18mgを1日2回服用した患者さんの34.2%に、副作用として下痢が認められました。
また、下痢によって服用を中止した患者さんは5.6%でした。
下痢の多くは軽度から中等度でしたが、重度の下痢も報告されています。
さらに、下痢の多くは治療開始後3か月以内に発生していました。
そのため、特に服用開始後は、下痢の有無や程度に注意する必要があります。
下痢が続く場合や、症状が強い場合には、医師や薬剤師に相談しましょう。
体重減少にも注意
ジャスケイド錠では、体重減少も報告されています。
特発性肺線維症の臨床試験では、18mg群の6.4%に副作用として体重減少が認められました。
服用中は下痢だけでなく、食欲や体重の変化にも注意が必要です。
ジャスケイド錠を服用する際に注意が必要な人
ジャスケイド錠は、すべての患者さんに使用できるわけではありません。
① 妊娠中・妊娠の可能性がある方
動物実験では、胚致死(はいちし)が確認されています。
そのため、妊婦や妊娠している可能性がある女性には、投与しないことが望ましいとされています。
また、妊娠する可能性のある女性は、服用中と最終服用後4日間、適切な避妊が必要です。
② 重度の肝機能障害がある方
重度の肝機能障害(Child-Pugh C)がある患者さんでは、ジャスケイド錠の血中曝露量が上昇する可能性があります。
そのため、治療は推奨されていません。
③ 末期腎不全の方
eGFRが15mL/min/1.73m²未満の患者さんでは、有効性・安全性を評価する臨床試験や薬物動態試験が実施されていません。
④ 小児
小児を対象とした臨床試験は実施されていません。
なお、添付文書上の禁忌は、ジャスケイド錠の成分に対して過敏症の既往歴がある患者さんです。
妊娠中の方や重度の肝機能障害がある方などについては、禁忌とは区別して注意事項が定められています。
まとめ
ジャスケイド錠は、2026年7月に発売された新しい肺線維症治療薬です。
従来の抗線維化薬とは異なり、PDE4Bという酵素を阻害することで、抗線維化作用と免疫調整作用を示します。
臨床試験では、特発性肺線維症と進行性肺線維症の両方で、52週間における肺機能の低下を抑える効果が確認されました。
一方で、急性増悪や死亡のリスクを低下させる効果については、現時点で確立していません。
また、すでに線維化した肺を正常な状態に戻す薬でもありません。
副作用では特に下痢が多く、服用開始後3か月以内に発生することが多いため、注意が必要です。
ジャスケイド錠は、肺線維症の治療に新たな選択肢を加えるお薬です。
今後、長期的な有効性や安全性について、さらに情報が蓄積されることが期待されます。
参考資料
- PMDA:ジャスケイド錠9mg・18mg 添付文書(2026年9月改訂)
- PMDA:ジャスケイド錠 審査報告書・申請資料概要
- FIBRONEER-IPF試験(国際共同第Ⅲ相試験、1305-0014試験)
- FIBRONEER-ILD試験(国際共同第Ⅲ相試験、1305-0023試験)
※本記事は2026年10月時点で公開されている医薬品情報に基づいて作成しています。医薬品の使用については、必ず医師・薬剤師にご相談ください。



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